第4話

先の一件後、佐藤は好意以上の気持ちが芽生えつつあったきなこへの想いを整理した。そして目の前のやるべき大量の仕事に没入する。










1ヶ月程経過したある日、ゆりねから電話がくる。
ゆりね「モナカに私を捨てたことを後悔させてやるわ!それで貴方にお願いがあるの。私の彼氏役をして貰いたいの。いいかしら?」
佐藤(そういうのはもう懲り懲りだ……)「悪いが他を当たってくれ」











ゆりね「それが他の誰かじゃダメなのよ〜、だってモナカが絶対に貴方だけはダメと言うんだもの。だからモナカに復讐するにはどうしても貴方の力が必要なの!ねっ?お願い!一生のお願いよ!お願い!お願い!お願い〜!」










佐藤は、あの2人は本気だから君も早く気持ちの整理をした方がいいと忠告したかったが、同時に婚約者だったなら傷も深かろうとゆりねに同情もした。ただ横にいるだけでいいと言うゆりねの必死の頼みに根負けした佐藤はできる範囲で協力することにした。佐藤(俺の今世はこんな役周りが宿命か?……)とため息をつく。








信号待ちのモナカときなこが乗る車。すぐ横にゆりねの車が止まる。









買い物帰りのモナカたち。前方をゆりねが佐藤と腕を組みこれみよがしに歩く。モナカときなこが2人に気づく。










映画館。
モナカときなこの前方の席。ゆりねと佐藤が連れ立って座る。ゆりねは佐藤にピッタリとくっつく。二人の様子に釘付けになるモナカときなこ。佐藤(あっ、そうか、あの方法ならいいな……)作業ができない時も常に仕事のことを考えている佐藤。









1週間後。モナカときなこは海岸を散策。前方岩場の陰にゆりねと佐藤が座っている。
ゆりね(あっ……来たわね)










二人が自分たちに気づいたことを確認したゆりねは「佐藤さん、お疲れでしょ?少し横になるといいわ」と、佐藤をレジャーマットに押し倒す。











モナカときなこは岩場の陰に倒れ込んだ二人を見て――慌てて逆戻りする。








寝そべった佐藤(ああ空がキレイだ、気持ちいい……たまにはこうした息抜きも悪くないな)
ゆりねは引き返す2人を岩場の影から見つめる。ゆりねどうだモナカ参ったか!――あと隣のお嬢さん、モナカに振られてももう佐藤さんには近づかないでね!佐藤さんはあなたに付き纏われて迷惑してるんだから、フン!








佐藤はゆりねの復讐に付き合う時間を徹夜によって捻出しているため常に睡眠不足。いつの間にか寝息をたてる。
ゆりね(あっ、寝ちゃたわね……それにしても見れば見る程モナカなんかよりずっといい男……私、すっかり貴方に心を奪われてしまったみたい……)佐藤の寝顔をうっとり見つめる。










帰りの車内。
佐藤「ひとつ質問があるんだが……」ゆりね「ええ、なにかしら?」佐藤「こんなことを続けて君の気持ちは晴れるのか?」
ゆりね「え?ええ、もちろんよ!暫くこうして復讐を続けていれば、そのうち立ち直れるわ。そんなことより疲れたでしょ?到着まで寝ていらして」










佐藤「そうか……ならいい」(俺には理解不能だが、女性とはそういうものなのか)納得すると本格的に寝る体制をとる。
ゆりね(そうよ〜貴方とこんな風にいつも一緒にいれば、そのうち貴方といい仲になれるもの~♡)










佐藤を送り届けゆりねが帰宅すると家の前にモナカが立っている。
モナカ「ゆりね!なんのマネだ。まさかアイツと本当に付き合ってるのか⁉︎」
ゆりね「あら?ヤキモチ焼いて家まで押しかけるなんて(今日の一件が相当効いたようね)も〜モナカったら可愛いんだから〜」












モナカ「男に向かって可愛いとか言うなー!しかもヤキモチなんて全く焼いてなーーい!」
ゆりね(へっ?そうなの?へ〜モナカったら彼女に本気なのね。まっ、でも丁度いいわ、私も佐藤さんのこと本気で好きになっちゃったし〜)












ゆりね「ねえモナカ、私が佐藤さんと結婚できるように応援してよ。そうすればきなこさんも彼から気持ちが離れてモナカ一筋になるわ」
モナカはそんな場面を想像する。きなこ『結婚した人のことなんてもう知りません!私はモナカさんだけです』モナカ(確かに、ゆりねの言う通りかもしれないな……)








モナカ「よし、わかった!じゃあ俺が結婚を破談にしたお詫びに、ゆりねが佐藤と結婚できるように協力してやるよ!今度ダブルデートしようぜ!」
ゆりね「キャー!ありがとうー!だからモナカって好き好き〜♡」










ゆりねはウキウキでデートの準備する。
ゆりね「何を着ていこうかしら?佐藤さん清楚系は好きかしら?思いっきりおしゃれをして佐藤さんをドキッとさせなきゃ!」











ゆりね「今日はね、うちの別荘にモナカ達を招待したの。モナカに見せつけたいから申し訳ないけれど私のこと大好きな演技をお願いしたいの。あと私のこと”君”じゃなくて”ゆりね”って呼んで欲しいのだけれど、いいかしら?」
佐藤「名前?ああそうか……了解だ」










佐藤(きなこと会うのか……あの日以来だな……きなこ、俺と会うの気まずいだろうな……まぁ俺が普通でいるのが一番だろうな……)
ゆりね(とうとう佐藤さんに名前で呼んで貰えるわ〜〜キャー嬉しぃ〜♡)










別荘にお昼に到着。使用人によって食事の準備がされている。
ゆりね「モナカたちが到着するまでお仕事してらして♡あちらのお部屋を使ってね」
佐藤「ありがとう、では……」










佐藤の仕事部屋に入っていくゆりね。
ゆりね「コーヒーどうぞ♡」
佐藤「おっ、サンキュー」











ゆりね(いつものクールな佐藤さんも素敵だけど、笑顔の佐藤さん……あ〜ん、たまな〜〜〜い!)ゆりね、完全に佐藤に落ちる。












ゆりねが幸せに浸っている所にモナカたちが到着する。
モナカ「よっ!」ゆりね「あ、いらっしゃい!」きなこ「……お邪魔します」
モナカ「酒を持ってきたよ。運転代行頼んで今日は思いきり飲もうぜ!」
ゆりね「いいわね〜!あっ、待ってて、彼を呼んでくるわね」









ゆりね「改めて紹介するわ。私の彼よ♡」  佐藤「やぁ、いらっしゃい」にこやかに挨拶する佐藤。
きなこ(やっぱりふたりは本当に付き合ってるんだ……)
ゆりね「さぁ食べましょう!ビュッフェスタイルだから各自好きなものを取って食べてね」










モナカがきなこに耳打ちする「この通り、ゆりねの家は大金持ちで金が有り余ってる。佐藤がゆりねと結婚すれば長年苦しんできた借金問題なんて一発で解決する。佐藤が多忙の中ゆりねとの交際を決めたのもそういう思惑があるんだろう。佐藤の幸せのためにも2人を応援してあげよう!」








食後の歓談中。
ゆりねは佐藤に甘え、佐藤はゆりねの要求に従い終始穏やかな笑顔で対応する。
きなこ(大人な2人でお似合い……佐藤さん、幸せそう……)現実を受け止めるきなこ。
そんなきなこの様子を確認し満足するモナカ。モナカ「さて、そろそろお開きとしようー!」












4人が帰ろうと外に出た途端、滝のような豪雨にみまわれる。
モナカ「麓が冠水して運転代行が来れないそうだ……」
ゆりね「仕方ないわね、一泊しましょう」













佐藤「それじゃ、おやすみ」と仕事で使った部屋に入っていく。
ゆりね「2人は残りの部屋を適当に使ってね」







ゆりね「私ももう寝るわ!おやすみなさい〜♡」と佐藤が入った部屋に入っていく。
モナカときなこ驚く。









部屋に入ってきたゆりねに驚く佐藤「な、なぜ君がここに?」
ゆりね「だって恋人なのに別々の部屋は変でしょ。大成功よ!あの2人目が点になってたわ」と小声で笑う。









佐藤「芸が細かいな。なら、少ししたら俺が隣の部屋に移動するよ」ゆりね「あっ、ダメよ。隣の部屋は物置きになっていて使えないの。だから3部屋しかないの」
佐藤「なら、なんとか理由を付けて本当に付き合ってるあの2人にひと部屋になってもらおう」









ゆりね「それはダメよ〜、モナカは結婚前の純潔を守る主義だから一緒の部屋は使わないわ。きっと彼女と手さえ繋いでないわよ」
佐藤(えっ?)









佐藤「――じゃあ、今夜は徹夜で仕事をするから、ゆりねがベッドを使ってくれ……(やはりあの日はなにか事情があったのか……)」
ゆりね「ありがとう(本当は隣の部屋も使えるけど、こんなチャンスを逃す手はないわ。私のセクシーな寝顔で佐藤さんのハートをゲットするわ!……うふっ♡)」









ゆりね(私がこんなに見つめているのにお仕事なんて手につくの〜?それにしてもお仕事してる姿も素敵だわ〜♡眼福♡)
佐藤は仕事をしながら、きなこの事情に思いを馳せる。佐藤(あの朝帰りに……どんな事情があったんだろう……)









と、その時、稲妻が光り轟音が鳴り響く。









雷が大の苦手のきなこは突然の落雷にブルブル震える。






佐藤は咄嗟に雷が苦手なきなこを想う。
佐藤(部屋にひとりでいるならさぞ怖がっていることだろう)きなこのそばにいてあげようとドアに向かうが――




佐藤(そうだった……俺はもう彼氏役ではないんだ。以前のようにはしてあげられない……)
しかし、きなこの様子が気になる佐藤はじっとしていられず部屋の中をウロウロする。









佐藤(そうだ!コーヒーを淹れるふりをして、さりげなくキッチンから様子を伺おう……)









佐藤はキッチンでコーヒーを入れながら部屋に聞き耳を立てる。









凄まじい雷にきなこは限界を迎えている。
きなこ(あれっ!キッチンに誰かいる!助かった!)









きなこはすぐさま部屋を出る(あっ……佐藤さんだった……)
佐藤(あっ、出できた)佐藤慌てて顔を戻す。









佐藤は平静を装い声をかける「あれ、どうした?……雷すごいよね、大丈夫?」
きなこ「あの……大丈夫と言いたいところですが……やっぱり怖くて眠れなくて(涙)」
佐藤「そうか、なら少しここに居るといいよ」









佐藤「はい、ホットミルク」
きなこ「あっ……ありがとうございます」





きなこ(あったかい……佐藤さんのそばにいると安心する……)心も体も温まるきなこ。
きなこの落ち着いた様子をみてホッとする佐藤。









安心したきなこはいつの間にか眠ってしまう。
佐藤「寝ちゃったな……」










きなこが眠る姿を見て、佐藤の気も緩み睡魔に襲われる。佐藤(雷……少し遠のいたかな……)










2人はそのままソファで熟睡する。












翌朝。ニワトリの声で目が覚める2人。
佐藤ときなこは密着して寝ていた。












2人はハッとし顔を見合わせる。顔の近さにびっくりする。














2人は同時にソファから飛び起き離れる。
きなこ「わっ!す、すみません!私ったら佐藤さんにもたれ掛かって寝てしまって……」
佐藤「俺こそいつの間にか寝入ってしまった、申し訳ない」











と、その時――モナカとゆりねが部屋から出てくる。ギョッとする2人。
モナカ「おはよう!ああ〜よく寝た!さすが最高級ベッドは違うな~」
ゆりね「おはよう〜!あらっ?2人は随分早起きなのね」









モナカはきなこの元へ、ゆりねは佐藤の元へ行く。
モナカ「きなこさんよく眠れた?今日は朝から会議があるから急いで帰ろう」
きなこ「は、はい……」
ゆりね「私達も帰りましょ♡」
佐藤「あ、ああ……」



~第5話につづく~