第3話

きなこ「今日はありがとうごさまいました……」佐藤「どういたしまして。明日から1週間出張で留守にするけど、その後はいるからまたいつでも好きな時に遊びにおいで」
きなこ「……(今日でもう終わりにすると言わなくちゃ……)あの……」
その時、佐藤の携帯電話が鳴る。佐藤「あっ、ごめん仕事の電話だ。じゃあこれで帰るよ」
きなこ(言いそびれちゃった……)










きなこの部屋の前にモナカが立っている。  
モナカ「やっと帰ってきたか」
きなこ「店長⁉︎ど、どうしたんですか」











モナカ「今日の昼頃、弟くんが倒れたんだ」
きなこ「えっ!」
モナカ「君と連絡がつかないと会社に連絡がきたから僕が代わりに行ってきた。僕の知り合いの病院に入院させたよ。弟くんが最新の治療を受けられるよう手配したから大丈夫だ」










きなこ部屋。きなこ(私が佐藤さんと呑気に遊んでいる時にタルトがひとりで苦しんでいたなんて……)罪悪感に押しつぶされるきなこ。(どんなに心細かっただろう。ごめんね。私、これからはタルトの病気を治すことを第一に生きるわ)きなこは決意する。








一週間後。南国の取引会社前。
佐藤(よし!大口の契約が取れたぞ。1ヶ月間練った甲斐があったな。……ああ、それにしてもいい天気だ。せっかくだから海に行ってみるか!)









佐藤は出張帰りに少し足を延ばして海による。
佐藤「おお、綺麗だ……きなこをここに連れてきたら喜びそうだな」きなこが大はしゃぎする姿が目に浮かび思わず笑みがこぼれる佐藤。










(決めた!次はこの海にきなこを連れてこよう……よーーーし!ガンガン仕事してジャンジャン稼ぐぞ~!)やる気みなぎる佐藤。
とその時、海岸に貝殻アクセサリーの売店を見つける。








佐藤(あっ、このネックレス、きなこの好きなクリームソーダカラーになってるぞ(笑)しかもこの海の色と同じ色だ。キラキラしていて綺麗だな……)先週の海でのキラキラしたきなこの姿が重なる(きなこにピッタリだ……)嬉しくなる佐藤。










佐藤帰宅。
佐藤(さてと……少し仕事を片付けるか……)











しばらく仕事を進めるが、きなこへのプレゼントが気になり思うように仕事がはかどらない佐藤。








佐藤はついにプレゼントを手に取り家を飛び出す。








佐藤(このネックレスを早くきなこに渡したい。……あの美しい海にきなこを連れて行く約束をしたい。きなこに……ひと目会いたい)きなこの家をめがけて夜道を颯爽と駆け抜ける佐藤。










きなこ部屋玄関。
佐藤(こんな遅い時間の突然の訪問は不謹慎だが、これを渡して顔を見るだけだ、許してもらおう)ドキドキしながらチャイムを鳴らす佐藤。










程なくしてドアがあき、中から男が顔を出す。佐藤は驚く。
モナカ「なんの用だ?悪いが今取り込み中だ、帰れ!」ドアが閉まる。










佐藤(え⁉︎なぜあの男がきなこの部屋に……?)頭が混乱する。










ハッとする佐藤。
佐藤(き、きなこ!きなこ!中にいるのか⁉︎大丈夫か!ドアを開けろ!きなこ!)










インターフォンにきなこがでる。
佐藤「き、きなこ!大丈夫か⁉︎」
きなこ「はい、大丈夫です。佐藤さん……ごめんなさい……私もう佐藤さんには会いません。彼氏役はもう終わりにしてください……今まで本当にどうもありがとうございました」
一方的に通話が切られる。









佐藤(彼氏役終わり?……突然どうしたんだ?)状況は飲み込めないが、きなこの無事を確認できた佐藤は、ひとまず玄関から離れ、道路からきなこの部屋の明かりをみつめる。








程なくきなこの部屋の明かりが消える。ギョッとする佐藤。










来た道を戻る佐藤。
佐藤(……そうか、あの男はきなこの彼氏なのか――だからもう彼氏役は不用と……そういうこと……か)











荷物を持った2人が部屋から出る。
きなこ「タルト……」泣きそうなきなこ。
モナカ「大丈夫だ、今から急いで向かえば手術前に弟くんに会えるはずだ」










モナカ「心配ない、最先端の設備の病院だし、医師の腕も一流だ。手術は成功するよ」
きなこ「はい……ありがとうございます」モナカの言葉に勇気づけられるきなこ。








帰宅した佐藤。――プレゼントをゴミ箱に捨てる。








それから3日間、佐藤は仕事に没頭する。









仕事がひと段落する――ゴミ箱に捨てたプレゼントが気になり始める佐藤。










4日目の早朝
佐藤(そうだ、俺にファーストキスを奪われたと頬を真っ赤にして抗議してきた純情なきなこ……あの夜は何か事情があったに違いない)佐藤はゴミ箱からプレゼントを取り出しホコリを丁寧に払い、リボンを綺麗に整える。







朝8時。佐藤はきなこが出勤するタイミングでネックレスを渡そうと決心する。
きなこの家の前、少し身を隠しながらきなこが部屋から出てくるのを待つ。










そこへモナカの乗った車が止まる。助手席にきなこが乗っている。








モナカ「看病で疲れただろう、今日は出社しなくていいからゆっくり休むといい」
きなこ「すみません……何から何まで……本当にどうもありがとうございました……」恐縮するきなこ。












モナカ「水臭いな――僕はお礼の言葉より、きなこさんの笑顔が見たいな」
そう言われたきなこは、感謝の気持ちで、精一杯の笑顔をモナカに向ける。













車の中の2人の様子を見た佐藤は、踵を返し来た道を戻る。               佐藤(2人仲良く朝帰りか……)思わずプレゼントの箱を持つ手に力が入る。







足早に歩きながら、先程の光景とともに交わされたであろう会話が佐藤の脳内に再生される。           モナカ『きなこ、世界で一番好きだよ♡』
きなこ『私もです♡』
ムッっとした佐藤は、2人の姿を振り払うように箱を振り上げ――







道路脇のゴミ置き場に箱を投げ捨てる。
佐藤(あれがファーストキスだったなんて……嘘っぱちだな!)









きなこ部屋。
きなこ(タルトの治療費、私の貯金では全然足りなくてモナカさんに助けてもらった。タルトを完治させるには、これからもモナカさんの好意に甘えるしかない。これほどの恩をどう返せばいいのか見当もつかない……もし――もしもモナカさんが望む私との結婚が少しでも恩返しになるのなら……)きなこは決意する。









佐藤自宅。
「悲しかったり辛いことがあった時に読んでみてください、きっと元気がでるから」と、以前きなこがくれた絵本を眺める佐藤。2人で過ごした時を思う(そうだ、きなこは全然悪くない……悪いのは俺だ。ただの彼氏役だったのに勝手に浮かれて……)









佐藤は絵本を顔に伏せる。
佐藤(……きなこが幸せならそれでいい。彼氏役は終わりだ……これでいい……)

と、その時、佐藤の携帯が鳴る。









佐藤はベッドから起き上がり電話をとる。            女「私よ私!この前はあなたのピンチを助けてあげたから今度は私の番よ!私の婚約者が若い女と遊び回っているのをやめさせたいの!今日の3時にグランドホテルのロビーに来て!お願いよ!絶対に来てね!」と一方的に電話が切れる。









午後3時。佐藤は仕方なしにホテルに行きロビーで女の姿を探す。
女「私という婚約者がいるのに、最近若い女と遊んでるでしょ!」男「君との婚約は破談になったよ」女「そんなの聞いてないわ!だったら私も遊ぶわよ!」
男「いいよ、君が誰と遊ぼうが関係ないさ」 女「あらそう?じゃあ好きにさせてもらうわ」









女「あっ、こっちよ、こっち!来てくれたのね!どうもありがとう〜」







女「じゃあ、私は今日からこの人と遊ぶわ!」と婚約者という男の前に佐藤を連れていく。







男「どうぞどうぞ……」とソファ越しに振り向いた男と佐藤の目が合う。
二人は息を飲む。









モナカ(こ、この男……くるみさんやきなこさんだけでなく、ゆりねとも知り合いなのか⁉︎)
佐藤(コイツ――婚約者がいる身なのか⁉︎)
自分のためにいい男2人が火花を散す展開になったことにひとりご満悦なゆりね。









次の瞬間、佐藤は踵を返し走って出口に向かう。
ゆりね「あっ!待って、どこに……」佐藤を追いかけようとする。
モナカはゆりねの腕を掴む「ダ、ダメだ、やめろ、アイツだけは絶対にダメだ!」
ゆりね「なんでよ!誰でもいいって言ったでしょ!」2人は言い争いを始める。









佐藤は全力疾走できなこの家に向う。
佐藤(きなこ……俺がついていながらあんな男に騙されて……クソッ)
今朝の二人の会話が脳内で書き変わる。
モナカ『きなこ、僕たちが付き合っていることは誰にも言っちゃダメだよ。秘密ね……』
きなこ『はい、わかりました……』









会社を休みベッドでうつらうつら寝ていたきなこは突然の佐藤の訪問に飛び起きる。
佐藤「ここにいてはまたアイツがノコノコやってくる。とりあえず俺の家に行こう!」寝起きのきなこは訳がわからないまま佐藤に手を引かれ部屋を出る。









佐藤の家。
佐藤「きなこ、暫くの間ここにいろ。もうあんな男と関わったらダメだ、わかったか?」
きなこ(佐藤さん……???)きなこは状況がのみ込めない。









その時、玄関ドアからモナカが顔を出す。    きなこ驚く(モ、モナカさん⁉︎)
モナカ「おい!佐藤何のマネだ!俺の好きな女をまた横取りするつもりか?そうはさせるか!」









モナカが部屋に入ってくる。
モナカ「君にきなこさんが守れるとでもいうのか?ああ、ちょうどいい、この際だからきなこさんに決めてもらおう。どうするきなこさん?……僕とこの男とどちらに守って貰たい?」モナカは続ける「君は知らないだろうが、実はきなこさんには……」
モナカの言葉にギョッとするきなこ。







きなこは咄嗟にモナカの元に行く。         きなこ(モナカさん、それ以上言わないで!佐藤さんには絶対に弟のことを知られたくない)








モナカ「――ということだ、悪いな」モナカは勝ち誇ったように言うと、きなこを携え玄関に向かう。
きなこ(佐藤さん、ごめんなさい……でも佐藤さんには迷惑をかけたくない……)
2人の後ろ姿をじっと見つめる佐藤「……」










2人が部屋から出て行きドアが閉まる。                  佐藤(そ、そうか、あの二人は……本気なのか……)
そう理解した時、佐藤の中で何かがガラガラと音を立てて崩れていく。

~第4話につづく~