【猫メロ】ソーダ色のファーストキス　第2話

第2話

きなこ「終わりなんて嫌です。だって私、佐藤さんのことが……」
きなこが勇気を出して自分の気持ちを佐藤に伝えようとしたその時――
女「お待たせ〜、私の用事は終わったわ」

女「あら、お嬢さん、私の彼に何か用？カッコいいからって付きまとわないでね。さっ、行きましょう！」と佐藤の腕を引きながら歩き出す。
きなこ「えっ……」

突然の出来事に戸惑う佐藤「キ、キミ誰？」
女「あの子に付きまとわれて困っているんでしょ？私が助けてあげるわ。あっ、振り返えっちゃダメ！こういう時は心を鬼にして一気にやらないと、かえって可哀想よ」

角を曲がったところで女は腕を離す。
女「今回は私が助けたから、次は私を助けてね」と強引に連絡先を交換させる。

帰宅したきなこはベッドで泣き崩れる。
（佐藤さんに彼女がいた……海に行く約束を忘れて彼女とデートをしてた……）

翌日。きなこがいないシーンとした室内で仕事をする佐藤。

買い物帰り。いつもきなこと他愛のないおしゃべりをしながら飲んでいたクリームソーダを1人で飲む佐藤。

きなこと別れてから1週間。
この味気ない生活にきなこが彩りと癒しを与えてくれていたことを痛感する佐藤。そして成り行きとはいえ彼女がいたとの誤解を与え、きなこをひどく傷つけてしまったことを後悔する。佐藤（明日、謝りに行こう）

きなこは決心する。
きなこ（思い返すと――彼女が現れた時佐藤さん不思議そうな顔をしてた――あの人が本当に彼女なのか聞いてみよう……諦めるのはそれからだ……）

翌日。佐藤がきなこの家に行く準備をしていると、きなこが訪ねてくる。
きなこ「あの……あの人が佐藤さんの彼女さんなのですか？」
佐藤「ごめん違うんだ。彼女はただの知り合いだ。誤解をさせてしまって申し訳なかった。彼氏役はきなこへのお詫びなのに俺から終わりを切り出すのは間違っていた。きなこがもういいと言うまで彼氏役は続けるよ」と佐藤は平謝りする。

きなこは夢見心地で仕事をする。
佐藤の「彼氏役を続ける」という言葉と――「来月必ず丸１日空けるから海に行く約束のリベンジをさせてくれ。仕事をまとめて仕上げる必要があるからそれまで１ヶ月近く会えないけれど……それでもいいかな？」の言葉を思い出す。
きなこ（佐藤さんと1日中一緒にいられる〜♪）
同僚「きなこさん、お電話よ」

きなこ「もしもし、タルトなにかあったの？」タルト「もしもし、きなこちゃん、俺、病気になっちゃった」
きなこ「えっ」きなこ絶句する。

きなこ（大変なことになったわ。どうにかして治療費を貯めないと……）きなこは昼の仕事の他に深夜の仕事もすることにした。
きなこ（そうよ、どうせ1カ月間佐藤さんに会えないんだもん、今のうちに稼げるだけ稼ごう！）
きなこは睡眠時間を目一杯削り働き続ける。

2週間後の勤務中きなこ倒れる。
同僚「き、きなこさん！大丈夫！？」

今日付けで、スーパー店長からデパートの店長になった月星グループ御曹司のモナカが病院に駆けつける。

モナカ「悪い、就任式が長引いた。――それで、倒れたという従業員の様子は？」
秘書「はい、過労が原因で命に別状ないそうです」

モナカ、ドキッとする（こ、こんな若い子が過労だなんて……なぜ）

店長室。
モナカ「彼女のことは調べてくれたか？」
秘書「はい、勤続4年目の22歳。勤務態度も真面目で良好です。田舎に住む弟が病気になりその治療費を工面するため2週間前から深夜の仕事を始めています」

3日後、モナカはきなこを店長室に呼び出す。
モナカ「体調はいかがですか？」
きなこ「この度はご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」

モナカ「きなこさん。弟さんのご病気のこと聞きました、大変ですね。そこでひとつ提案があります。私のもとで事務の仕事をする気はありませんか？今の売り場の仕事よりお給料が大幅にアップしますよ」
きなこ「え！？いいんですか？」

翌日からきなこは事務の仕事に変わる。それから一週間、テキパキと仕事をこなす。

店長のお供で外出した帰り道。
モナカ「きなこさん、新しい仕事はどうですか？覚えることが沢山で大変ではありませんか？」
きなこ「いえ、とても楽しいです！私はこのデパートが大好きですし、店長さんのお仕事のお手伝いができて、とても光栄です！」

きなこの素直で前向きな言葉が、自分事としてモナカの胸に突き刺さる。
モナカ（やっぱり、か、かわいい……）モナカ本格的に恋に落ちる。
その時、道路の先に佐藤の姿を発見するきなこ（あっ！）

きなこ「さ、佐藤さん、こんにちは！」
佐藤もきなこに気づき「やぁ！偶然だね」
モナカ（ん？……）パッと赤く染まったきなこの頬を見つめる。

佐藤（誰だ？横の男）　　　　　　　　　　　
モナカ（誰だ？あの男！）
きなこ（佐藤さんに偶然会えちゃった♪ラッキー！）

会社に戻ったモナカは思い出す。
（あっ、あの男！見覚えのあると思ったら……俺が車でくるみさんの家の前を通りかかった日の夜に――くるみさんと一緒に部屋に入って行った奴だ）

モナカは秘書に男の調査を指示する。
モナカ（俺のくるみさんを横取りした奴……今度こそ――俺の好きな女を絶対に奪わせない……）

翌日。
モナカ「きなこさんの歓迎会をしたいな。急だけど今夜なんてどうかな？」
きなこ「あ、ありがとうございます！はい、大丈夫です」

ワインを飲み、すっかり酔いが回るきなこ。
モナカ「じゃあ、次はきなこさんの好きな男性のタイプを教えて」
きなこ「タイプですか？ええと……優しくて」モナカ（俺、毎朝小鳥に餌をあげてる男よ）
きなこ「強くて』モナカ（俺、柔道3段～）
モナカ「あとは？」きなこ「あとは～」きなこはモジモジし言いよどむ。モナカ（うん、そうだよね、お金持ちとは言いづらいよね……大丈夫だよ、俺、大金持ちだから）

モナカはきなこの好きな男性のタイプが全て自分にあてはまると知りホッとする。その時、
きなこが意を決したように「あ、あとは、キ、キ、キスが上手な人です！」佐藤の顔を思い浮かべ顔が真っ赤になる。
モナカ（へ⁉︎キ、キス！？そ、それ大事！？）思いもしない返答に目が点になるモナカ。

帰宅後、モナカはドキドキしながら『上手なキスの仕方』を検索する。

翌日。仕事中も記事を読み続けるモナカ。
一方、昨晩の途中からの記憶が全くないくるみは、仕事をテキパキこなす。　　　　　　　　　　　　　　　　　

午後3時。きなことの結婚式を妄想し幸せな気分に浸るモナカ。
秘書「店長！店長！お父様がお呼びです」

会長室。
父「デパートの方はどうだ？」モナカ「はい、問題ありません」父「そうか。3年後にはお前を本社にあげる。忙しくなるから今のうちに婚約者のゆりねと結婚しなさい」
モナカ「お、お父様！私の結婚相手は自分で決めます！」

父「ダメだ! 勝手な真似は許さん！」
モナカ「私には好きな女性がいます。結婚はその人とします！」
父親は少し考え「……」ならばよい、その女と今すぐ結婚しろ！2週間以内だ！」
モナカ「に、2週間⁉︎そんな急には……」
父「それが条件だ！それが出来ないなら予定通りゆりねと結婚しろ！」父は部屋を出ていく。

きなこの部屋。
きなこ「やったー！明日は待ちに待った佐藤さんとの海デート。去年買ったこのクリームソーダカラーの水着が着れる〜」佐藤との海デートを想像しニコニコ顔のきなこ。そこにチャイムが鳴る。

モナカ「きなこさん！僕と結婚してください！」豪華なバラの花束を差し出しプロポーズをするモナカ。きなこはあまりに突然のことに驚く。

しかし、モナカの真剣なまなざしを見て本気と察する。
きなこ「すみません、私には好きな人がいるので店長とは結婚できません」と正直に答える。
モナカ、ガクンと膝から崩れ落ち肩を落とす。

モナカ「も、もしかして好きな人というのは、この前に道で会った佐藤という男か？」
きなこ（なんでわかっちゃったのかしら？）と思いながらも「はい……」と恥じらいながら答える。

モナカ「あの男はダメだ！やめたほうがいい」強い口調で言う。
きなこ「へっ？」
モナカ「アイツは親の残した莫大な借金を背負っている。しかも最近、前の会社の退職時に多額の違約金が加算され、奴の借金は相当な額になっている。だから今、あの男は彼女など作って遊んでいる時間も金も一切ないはずだ」

きなこはハッとする。佐藤と出会った時に言っていた『今は精神的にも経済的にも彼女をつくる余裕がない』という言葉と、1ヶ月前に彼氏役を終わりにしたいと言った理由を理解する。
きなこ（私はなんてことを……佐藤さんに無理を言って……）

モナカ「しかも――もしアイツがきなこさんの弟さんの病気の、莫大な治療費のことを知ったら……近くにいる女が金に困っているのに助けてあげられない自分を責めるだろう。もしくは更に借金を重ね君を助けようとするかもしれない。――そしたらヤツの人生は終わりだ、破滅する。アイツのことを思うなら――離れてあげた方がいい」
きなこ「……」

きなこのひどく落ち込む姿を見て、モナカは部屋を出る。
モナカ（――い、言い過ぎたか？いや、しかし本当のことだしな……）

佐藤部屋。海に行く当日。午前4時半過ぎ。
佐藤「よし！なんとか予定通りに終わったな――さて、少し仮眠してから出かけるとするか！」

早起きして作ったお弁当を持って駅前に立つきなこ。
きなこ（佐藤さんに弟のことを気づかれる前にはなれなちゃ……会うのは今日で最後にしよう……）そう思うときなこの胸にどっと悲しさが押し寄せる。

午前7時ピッタリに佐藤が笑顔でやってくる。
佐藤「やぁ、おはよう！」
佐藤の優しく清々しい笑顔にきなこの頬もつられて緩む「お、おはようございます！」
きなこ（そうだ、佐藤さんがせっかく作ってくれた貴重な時間。悲しみなんかで無駄にしたくない。今日は思い切り楽しもう！）きなこは気持ちを切り替える。

二人は電車に乗ってお弁当を広げる。車窓にきらめく海が見えてくる。

海に到着する。さっそく波と戯れるきなこ。
きなこを海に連れて行くという約束を無事に果たせてホッする佐藤。きなこのはしゃぐ姿を微笑ましく見つめる。

ふと、佐藤は先日きなこの横にいた男を思う。
佐藤（誰だか気になるが、本当の彼氏でもない俺が聞くのは、やっぱり違うよな……）海面に男の顔がちらつく。佐藤の顔が険しくなる。
きなこは佐藤を振り返る（あっ……佐藤さん浮かない顔してる……店長の言ってたことは本当だ。今まで全然気づかなかったけど、佐藤さんにとって仕事を進められない私とのこんな時間はストレスなんだ）

きなこ（私のわがままは今日で終わりにします。だから今日一日だけは……）きなこは急降下しそうになる心を奮い立たせ「それ～！」と佐藤にめがけて水をかける。
それに気づく佐藤（そうだ、せっかくきなこと遊びに来れたんだ、今に集中だ！）
佐藤「きなこ、やったな～！おかえしだ～！」と笑顔で応戦する。
青い空に水滴がきらめく。大好きな佐藤の笑顔が目の前にある。きなこは今このひと時が眩しすぎて幸せすぎて悲しくなる。