第4話


【1週間後】
カカオ「佐藤さん、ちょっといいですか? 最近くるみさん元気がなくて。明日から大型連休なので遊園地に連れて行ってあげようと思うのですが、佐藤さんも一緒にどうですか?」







佐藤「いや、俺はいいよ。二人で楽しんで来い」
カカオ「ダメですよ~、二人の仲直りのための計画なんです。二人が仲直りしてくれないと俺が困るんです。明日の10時に遊園地の入り口で佐藤さんが来るまで待ってます!」






佐藤(――遊園地か――くるみがずっと行きたがってたな。いつも俺の仕事が忙しくて結局行けずじまいだった。元気がないというくるみの様子も気になるし――くるみに……最後にもう一度だけ会いたい……)






カカオ「くるみさん! ほら、来てくれたでしょ? 佐藤さんはね、俺の頼みごとは大抵聞いてくれるんだ!」






くるみ(来ないと思っていたクロさんが来た――そうよ、私の前から突然姿を消した理由を告げに来てくれたんだわ。クロさんは私を見捨てた訳じゃなかった)





カカオは二人を仲直りさせようとおちゃらける。
くるみ(この1週間、クロさんの事ばかり考えてしまいカカオさんに心配かけてしまったわ。その恩を返すためにも今日は楽しもう!)






自分達の為におちゃらけ続けるカカオの健気な様子を感じ取った二人は――






精一杯の笑顔で応えた。







カカオ「ソフトクリームで乾杯しよう!」
佐藤・くるみ・カカオ「かんぱ~い!」
カカオ(よし、仲直り作戦成功だな! 任務完了〜!)






カカオ「最後はやっぱり観覧車でしょ!」






くるみの正面に佐藤が座る。最後に乗り込むカカオは係員と「いってきま〜す!」と明るく挨拶を交わす。






くるみは正面の佐藤を直視することができず、窓の外をじっと見ている。








カカオ「くるみさん、さっきから真剣に何を見てるの?(笑)」
カカオの顔がくるみに接近する。





いつもとは少し違う困惑の表情を浮かべるくるみにカカオ(か、可愛い・・・)






カカオ(――キ、キス――したい……)






カカオ(――ハッ! まずいぞ、俺、今、佐藤さんがいることを完全に忘れてた!!)






カカオは恐る恐る佐藤を見る。
カカオ(――あ、佐藤さんお疲れで寝てたか――助かった……)






カカオ(――危ないところだった。何やってんだよ俺、恥ずかしいな――ゴメンよ、くるみさん……)





カカオ「佐藤さん、今日は1日お付き合いくださったうえに夕食までご馳走していただき、ありがとうございました! じゃあ僕たちはここで」
くるみ「あ、カカオさん、私も友達と会う約束をしているのでここで」






カカオ「えっ!? 今から会うの?」
くるみ「――ええ」
カカオ「ならもう暗くて危ないから待ち合わせ場所まで送っていくよ」
くるみ「ううん大丈夫、すぐ近くだから」
佐藤「じゃあ 俺はお先に」






カカオ「待ち合わせ場所はどこ?」
くるみ「あ――ここ」
カカオ「なんだこんな近くか(笑)なら心配ないね、じゃあまた明日連絡するね」




カカオはくるみがカフェに入るのを名残惜しそうに見届けてから帰路につく。






カカオ(くるみさんの笑顔が戻ってよかったな〜こんな夜はくるみさんと一緒に帰りたかった……)
今日一日のくるみの笑顔を思い出し幸せに浸る。







カカオ、くるみのポシェットを持っていることに気づく「あっ! しまった!」







カカオ(くるみさん困ってるだろうな)
くるみの入ったカフェまで急いで戻るカカオ(くるみさーん、待ってて~今すぐ届けるよぉぉぉー!)






くるみはカカオの姿が見えなくなったのを確認してから急いでカフェを出る。






佐藤は歩きながら今日一日のくるみを思い出す。この前はあんなに泣いていたのに今日はうって変わって笑顔で過ごしていた。あの日俺を責め気が済んだのか――





今日の様子からすると俺に愛情が残っているわけではなさそうだ。くるみの横にはもうカカオがいる……佐藤の胸がチクンと痛む。






佐藤(はぁー、俺はいつからこんなガラスのハートになったんだ?俺も早く気持ちの整理をしないと)
くるみ「クロさん」
佐藤(はぁー、くるみが俺を呼ぶ空耳まで聞こえる……)






くるみが佐藤をつかまえる「クロさん!」
佐藤「く、くるみ⁉︎」






くるみ「私ずっと待ってたの――クロさんが戻ってくるのをずっと待ってたの」泣きながら訴える。






くるみ「私のどこが嫌だったの? 料理がヘタだったから? 甘えてばかりいたから?」
自分に非があると思い込んでいるくるみを見て佐藤はたまらない気持ちになる
佐藤(違うよ、俺がくるみを嫌うはずないじゃないか。俺がどんなにくるみを愛していたか……)






カカオ(くるみさんがカフェにいない!)
こんな遅い時間にくるみが忽然と消えた。






カカオの脳裏に最悪のシナリオが浮かぶ。生きた心地がしないまま必死でくるみを探し回る。






くるみの必死な涙の訴えに、今まで封印してきた想いが溢れ出してしまう佐藤。
佐藤(くるみ、辛い思いをさせて悪かった……)思わずくるみを抱きしめる。






ちょうどその時、壊れかけの街灯が点灯し2人を照らす。
カカオ(……!)






街灯の下で抱き合う二人を見て、後ずさるカカオ。






カカオは街を彷徨う。
事務所で笑い転げていた二人。
公園でケンカしていた二人。
暗闇で抱き合っていた二人。
カカオの頭の中で再現され続ける。






カカオ、繁華街で酔っ払いに因縁をつけられる。
酔っ払い「おい! 痛えなーどこ見て歩いてんだよ! へへへ、やるかーー⁉︎」






カカオは誰でもいいからおもいきり殴りたかった。
酔っ払い「なんだーテメェ! やっちまえー!」






カカオは3対1の無謀な喧嘩をする。






カカオは殴り殴られついに倒れる。
酔っ払い「今日はこのへんにしといてやる! 今度会ったらタダじゃおかねぇからな!」






しばらく倒れたままでいると、雨が降ってくる。






カカオはそのまま雨に打たれ続ける。







くるみは別れの理由を聞くまで帰らないと言い張り、観念した佐藤はくるみを家まで送っていく。そして部屋で別れた理由を全て正直に話す。
真実を知ったくるみは(クロさんが可哀想……そんなの可哀想……)と大泣きする。
佐藤(もう過ぎたことだ、俺はもう大丈夫だよ。くるみの方がつらかったな……ごめんな……)となだめ続ける。







ひとしきり泣き、ようやくくるみの涙がおさまる。くるみの気持ちが落ちついてきたのを見計らい佐藤は帰る準備をする。
佐藤「もう遅いから帰るよ。きちんと戸締りするように」






くるみ「クロさん……」
玄関に向かう佐藤に抱きつくくるみ。







くるみ「――お願い――帰らないで……(辛い思いをしているクロさんをひとりになんてできない、もう離れない……)」
佐藤の鼓動が高鳴る。






雨に濡れ頭が冷静になったカカオは起き上がる。
カカオ(佐藤さんはいつも俺を本当の弟のように可愛がってくれた。そんな俺の彼女に簡単に手出しするような人じゃない……)






カカオは立ち上がり、雨の中を歩き出す。
カカオ(そうだ、大丈夫――きっとなにか事情があるはずだ――大丈夫――大丈夫)






3年間……思い出さない日などなかった最愛の女に泣きつかれ、佐藤の理性がぐらつく。
佐藤は静かにくるみの手をとり――






――振り返り言う。
佐藤「ダメだよ……くるみはカカオの婚約者だろ」佐藤はくるみに言いながら自分に言い聞かせる。そしてすぐに部屋から出ていく。





くるみは佐藤の言葉に我にかえる。そして、つい10日前のカカオからのプロポーズを思い出す。
くるみ(カカオさん……)
くるみは佐藤を追いたかったがカカオを思うと動けず、張り裂けそうな胸を叩きながらその場に泣き崩れる。






くるみの悲痛な泣き声がドアの外まで聞こえる。
引き返したくなる気持ちをグッとこらえ、佐藤は持てる限りの理性をふり絞り家路につく。

〜第5話につづく〜