第2話

【カカオがみつけた町工場】
社長「給料はそんなにたくさんはあげられないけれど、それでいいならぜひ働いて」
ふたり「どうぞよろしくお願いいたします!」








カカオは女に会いたくて毎日様子を見に顔を出す。
社長「そんなに毎日来なくても大丈夫だよ。彼女は本当によく働いてくれているよ」






【返済日 】
カカオが女のアパートを訪ねる。
女「スーパーの時よりも少なくなってしまって・・・」と申し訳なさそうにする。 
カカオ「今月から規定が変わりこの金額で全然問題ないです!」と金を受け取る。






カカオはその足でATMに行き、足りない分を自分の口座から補充する。








カカオが回収してきた女の返済額を確認する佐藤。
佐藤「彼女は竹中さんのところで順調そうだな」
カカオ「はい!」と元気に嘘をつく。






3カ月後、カカオの貯金は底をつく。





カカオは補充するお金を捻出するため、仕事の合間にアルバイトをする。
真夜中の工事現場でのアルバイト








高給を求め水商売でのアルバイト








時には危険を伴うアルバイトもした。








睡眠時間を削ってのアルバイトで体はきつかったが、カカオは毎日幸せだった。
月一回の返済日に彼女に会えるのを楽しみに、なんだって頑張れた。








【返済日 女のアパート】
カカオは前夜の土木作業で腕に傷を負ったが舐めてほっておいた。
女「あっ、ケガをしてるわ」
カカオ「ああ、大丈夫です、これくらい」







 

女「ダメよ、ほおっておくと跡になってしまう」とカカオを部屋に入れてくれる。








カカオは彼女の部屋で傷の手当をしてもらい、至福の時を過ごす。
女「はい、これでいいわ」
カカオ「ありがとうございました」







カカオは棚の上に飾ってある写真立てを見つける。
カカオ「あの写真は誰ですか?」









女が説明する。
同棲していたが3年前のある日突然「俺を探すな」の手紙を残し姿を消してしまった恋人。
毎日探し回ったが見つからないので、大金を払い探偵にも何度も依頼したが未だにみつからない。
姿を消したのは何か事情があってのことと思うが、もしかしたら私のことが嫌になって逃げ出した可能性もある。






カカオ(そんなことがあったのか……)
写真をよくみせて貰ったがカカオも全く知らない男だった。








今まで誰にも打ち明けられなかった胸の内を聞いてもらえた女は、次第にカカオに心を開いていった。
カカオ(彼女の名前はくるみさん! 年齢は俺より一つ年下だ!)







くるみともっと話しがしたいカカオ。そこでカカオは仕事を早く終わらせて、くるみの職場に行き、くるみを家まで送って行くことにした。くるみはニコニコ嬉しそうにしている。







そんなくるみの姿を見て、カカオはくるみの自分への好意を感じ勇気を出す。
カカオ「あ、あの――もしよかったら今から一緒に食事をして帰らない?」
くるみ「え?」






くるみの顔が曇る。
くるみ「ごめんなさい、私、――忙しくて」
カカオ「そっ、そうか、それじゃ仕方ないね……」






あっさり振られてしまったことにショックを受けたカカオは公園のベンチでうなだれる。
カカオ(俺といてあんなに嬉しそうにしていたのに――なぜだ?)
カカオの頭は混乱する。





【くるみの部屋】
帰宅したくるみは、恋人が消えてから毎日の日課になっている写真に話しかける。
くるみ「クロさん! あのね今日のお昼に探偵事務所の人と偶然会ってね、クロさんを海外まで探しに行ってもらえそうなの! 今度こそ見つけられる予感がするわ……」新たな希望に涙ぐむくるみ。






くるみ「――さっきね、カカオさんに食事をして帰らないかと誘われたの……でも外食は高いし断ったの。これからはより節約してクロさんを探す資金をたくさん貯めるわ! 贅沢は敵よ!」と、ニコニコしながら夕食に小さいおにぎりをひとつ作って食べる。







暫くしてカカオの座るベンチのすぐ前を男が携帯で話しながら通る。
男「そう、例のくるみさんだ。最終手段として海外を探す手もあると提案したら喜んでいた。ああ、料金は高額になるが彼女は毎回ちゃんと支払ってくれるから大丈夫だ……ああ、近々正式に依頼に来るだろう……」







今の男の会話に耳を疑うカカオ。
カカオ(えっ!!くるみって――まさか、くるみさんのことじゃないよな)






【翌日 昼休み】
カカオは居ても立ってもいられずくるみの職場に行く。しかし、みんながお弁当を広げているところにくるみの姿がない。
カカオ「こんにちは、くるみさんは?」
同僚「ああ、くるみちゃんはいつもお昼は食べないから、近くの公園に行ってるわ」
カカオ「え? なぜ食べないの?」
同僚「詳しくは知らないけどお金を貯める為みたい? よね?」
同僚「うん、彼女ちょっと訳アリみたいね……」








カカオは急いで公園に行きベンチに座っているくるみを見つける。くるみは空高く飛ぶ飛行機を見上げている。
くるみ「海外……今度こそ絶対に見つかるわ……」







カカオ(くるみさんはやっぱりまだあの男を探すつもりだ・・・3年もほったらかしにされてもまだそんなに好きなのか?)
カカオは写真の男に嫉妬する。
カカオ(いや――違う、くるみさんはあの男に捨てられた現実を認めたくないだけだ。新しい恋をしなくちゃ……くるみさんは一生救われない)







その夜、カカオは一大決心をする。
カカオ「俺があの男を忘れさせてやる――くるみさん、少々手荒なマネをするが許せ」
カカオは写真の男に宣戦布告する「くるみさんは俺がもらうぞ! それが嫌ならさっさと姿を現わし俺を阻止してみろ!」







【翌日のくるみとの帰り道】
カカオは怒涛のアプローチを開始する。
カカオは迫真の演技をする「く、くるみさん、ごめん、なんか俺腹が減って倒れそう」
くるみ焦る「え! だ、大丈夫ですか⁉︎ どうすればいいですか?」
カカオ「俺をこの近くの焼き鳥屋さんに連れて行って。ご馳走するからさ一緒に食べてよ、1人だと種類が食べられなく余計辛くなるんだ。ね? お願い!」
くるみ「は――はい! わかりました」








【焼き鳥屋】
カカオ「はい、どうぞ。くるみさんのおかげで沢山注文できたから、くるみさんいっぱい食べてね!」
くるみ「あ――ありがとうございま」






【2週間後 くるみの部屋】
くるみ「クロさん、あのね私……カカオさんに一緒にお出かけしようと誘われているの。でもクロさん以外の人とお出かけなんて変だから断わっているのだけれど、その度にカカオさんがすごく悲しい顔をして……。最近カカオさんに食事をよくご馳走になっているのに、断ってばかりもなんだか心苦しいの。……クロさん、許してくれるわよね」









やっとの思いでくるみとのデートまでこぎ着けたカカオは持てる力を総動員してデートに挑む。カカオはくるみを優しく気遣い男らしくリードし、面白いことを言ってたくさん笑わせた。そんなカカオの姿をくるみは時折眩しく感じ目をパチクリさせる。今までどこにも出かけず、ずっと独りぼっちで過ごしていたくるみはカカオと過ごす時間が楽しくて、次第にカカオとのデートを心待ちするようになった。







カカオはカカオでデート中、自分がする些細な行動にも感動を示し、きちんと感謝を伝え喜んでくれる素直で可愛らしいくるみの姿に胸が震えっぱなしだった。カカオはデートを重ねる度にくるみに対し狂おしいほどの愛情を募らせていく。
カカオ(もう限界だ……くるみさんを1日でもはやく彼女にしたい)







ある日の公園デート。
カカオ「くるみさん、今度はあっちに行ってみよう」と優しくくるみの手を握りスキンシップを試みる。
その時、くるみの胸がドキンと大きく高鳴る。
くるみ(……!)






その夜、くるみは写真を直視できなかった。カカオからの友達以上の好意を感じ、それにときめいた自分の心に戸惑う「クロさん――今日、私ね――私……」言葉に詰まる。これ以上カカオに会うのはやめようと思った、がしかし今更自分の身勝手でカカオを遠ざけることなどできない程カカオには感謝をしていた。(こんなによくしてくれるカカオさんを悲しませたくない)結局くるみはカカオに惹かれていく心をそのままに、カカオと会い続けた。





【2週間後 くるみ部屋】
くるみ「――クロさん……私、カカオさんから部屋に遊びに来ないかと誘われているの……もし行っちゃダメと言うなら、お願いクロさん、明日までに私の前に現れて、私を止めて……」
カカオからの容赦のないアプローチ攻撃に抗うことが難しくなってしまっているくるみは、この先の自分の運命をクロに託す。







それでもクロはくるみの前に現れることはなかった。翌日くるみはある決意を胸にカカオの部屋に行く。
カカオ「狭い部屋だけど、どうぞ」
くるみ「――お、おじゃまします」






2人きりの部屋。カカオは祈るような気持ちでくるみに愛の告白をする。
カカオ「――くるみさん、大好きだよ――俺の彼女になって欲しい」くるみは静かに頷き、カカオの愛を受け入れる。

カカオ「くるみさん、もう――写真の彼のことは探さないで――」
くるみ「……はい」







その夜、カカオに送られ帰宅したくるみは、写真に話しかけることなく、そっと写真立てを引き出しの奥底にしまう。







【翌日の事務所】
カカオが「キャッホーーー!」と飛び跳ねている。
佐藤(ん? なんだか嬉しそうだな)






佐藤はカカオに声をかける「なんだ彼女でも出来たか?」
カカオ「そうなんです! 可愛い可愛い彼女が出来ましたー!」
カカオはいつも相手から告白され付き合うが、常に男友達との遊びを優先し歴代の彼女が悲しみに暮れ去っていく姿を知ってる佐藤。
佐藤「あまり女を泣かせるなよ」







カカオ「今までとは違います。彼女は俺の運命の人です!」







カカオ「――ところで佐藤さんは彼女いないんですか? 男前なのに独身だからモテモテでしょう?」
佐藤「――え? 俺⁉︎ あはは……」と動揺する。







佐藤「あ、あれだ、俺は悪に手を染めたから自粛だ」
カカオ「!――あの事件、実際は佐藤さんが債務者を助けたって。その罰で佐藤さんはここで囚われの身になってるって聞きました。それを聞いて俺、佐藤さんを尊敬して……」








佐藤「俺のことはいいんだよ。それより、やんちゃなお前をメロメロにした可愛い彼女を今度紹介しろよ」
カカオ「はい! もちろんです!」
尊敬する先輩に自慢の彼女を紹介できることが嬉しいやら誇らしいやらで、思わず顔が紅潮するカカオ。







【15時】
カカオ「ではお届けに行って来ます! 今日もデートなのでそのまま直帰します!」
佐藤「了解、よろしく頼む」









カカオが部屋から出ていきシーンとする室内。









デスクの引き出しに目をやる佐藤。









机の引き出しから箱を取り出す。









箱の中から写真を出し、写真に写る猫の輪郭を指でそっと撫でる。
佐藤(……元気でいるか?)佐藤の胸が締め付けられる。








ハッと我に返る佐藤、窓の外はどっぷり日が暮れている。








佐藤(――俺としたことがまたやってしまった(汗)か、帰るか……)写真を元に戻す。









【1ヶ月後】
カカオがビシッと決めて事務所に入ってくる。
カカオ「佐藤さん、俺今日彼女にプロポーズします!」
佐藤「今日!? これ︎またずいぶん早い展開だな(笑)」









カカオ「俺、この手で一日も早く彼女を幸せにしたいんです!」
佐藤「そうか……」燃えるような恋をしているカカオの姿が、昔の自分と重なり眩しい。
カカオ「もしいい返事が貰えたら、彼女とここに戻ってきますので会ってください」
佐藤「おう! 成功を祈るぞ!」








取り立て業務の帰り道。
商店街を歩いていると、おもちゃ屋に風船を持った子供達がいる。佐藤は暫くその様子を眺める。









佐藤は【ヘリウムガスボンベ】と大量の【風船詰め合わせセット】を購入した。
ささやかだが、事務所でカカオの婚約パーティーをしてあげようと思いついたのだ。








事務所の裏庭にテーブルを用意し、風船で飾り立てる。カカオを本当の弟のように思い可愛がっている佐藤は、自分事のような幸せな気持ちで準備をしていく。








カカオ「佐藤さーん! 俺やりましたー!」
カカオが満面の笑みで裏庭に飛び込んでくる。
佐藤(おっ、ずいぶん早いかったな――準備がまだ途中だ――)









佐藤(まずは彼女に挨拶だな……)
佐藤は準備を中断する。









佐藤は2人を迎えるために振り返る。
カカオ「佐藤さん、こちらがもうすぐ僕の奥さんなる……」










くるみ「はじめまして、くるみと申します。どうぞよろしくお願いいたします」と顔を上げる。
佐藤(!!!)










佐藤は礼を返すが――
そのままの姿勢で、カカオの腕を掴み走り出す。









佐藤「悪いが急用ができて今ちょうど出かけるところだ。俺はこのまま帰るけど、ゆっくりしていってくれ」
カカオの耳元でそう告げると、佐藤はそそくさと事務所を後にした。










カカオ「くるみさん、ごめんね。佐藤さんは急用があるそうで帰りました。すごく顔色が悪かったから重大なことがあったのかもしれない」
くるみ「ううん、私は大丈夫よ」
カカオ「わぁ! 佐藤さん、俺たちのためにこんな準備をしてくれていたんだ。佐藤さんがいないのは残念だけど、せっかくだから二人で婚約記念パーティーだ!」









頭が真っ白になり、咄嗟に逃げ出した佐藤は公園のベンチに座る。









かつて、俺には心から愛する恋人がいた。自分で立ち上げた会社が軌道に乗ったのでそろそろ結婚をと考え準備していた。









そんな矢先、父親の経営する会社が倒産し連帯保証人だった俺のところに取り立て屋がやって来た。自分の会社を売却しても到底その額には届かず、連日金集めに奔走した。しかしその借金額は絶望的なものだった。









奴らは俺と同棲し結婚間近という恋人に目を付けた。お前が返せないなら代わりに女に返してもらうと脅してきた。返済期限が刻々と迫る中、彼女と一緒にいれば彼女が標的になり危険、しかし彼女との別れなど考えられない――精神的に不安定になった俺は、彼女と別れて生きていくくらいなら、いっそ一緒に死のうと決心し家に戻った。








食事が用意されていた。焦げた魚、形にならない卵焼き、唯一の得意料理のカボチャの煮物。それらを黙々と食べていたら……やはり自分の人生に彼女を巻き添えにすることはできないと思い留まり、突発的に家を出た。









俺を探し回る彼女は何度も俺の周辺に現れた。そのため別れたといっても信じてもらえず、連中は彼女を徹底的にマークしていた。
そんな中、彼女を見逃してあげられる方法がひとつあると提案された。俺はその恐ろしい提案を承諾した。その提案を実行すればもう普通の生活には戻れない。だから絶対に彼女にみつかる訳にはいかなかった。付き合ってた男が犯罪者なんて……そんな思いはさせられない。









俺は悪に手を染める前に、名前を変え整形をした。
これでもう彼女は俺を見つけられない。そして俺も彼女の消息を調べることはしなかった。なぜなら――
消息を知れば会いたくなり、会ってしまえばきっとまた愛してしまうから――









そんな恋人。3年前に別れたが、ずっと忘れられずにいた彼女が突然目の前に現れた。
……弟分の婚約者として。

~第3話につづく~