第1話 

佐藤「ただいま……ん?いないな、どこ行った?」
部屋を見渡すとカーテンの後ろに隠れている猫を発見。しっぽの先が少し見えている。
佐藤(クスッ、今日はかくれんぼか?なんだこの画、可愛くて……たまらん♡)











佐藤(俺をこんなにキュンとさせて……ただじゃおかないぞ♡覚悟しろ……)そっとカーテンをめくる。
と、その時――











目が覚める。
佐藤はベッドの上で寝たまま両腕を上げている。












窓からは朝日が射し小鳥が鳴く。佐藤は起き上がりため息をつく。
佐藤(なんだ夢か。……あと少しで…………会えたのにな……)














【消費者金融事務所】

佐藤「カカオ、取り立てのイロハは全て教えた。今日からは独りでやれ」
カカオ「はい! 佐藤さん」











佐藤は積み上げられた書類の上から3枚を取り……










残り全てをカカオに渡す。
カカオ「お、俺の多いですね」
佐藤ニヤリとする。












カカオ「よし! やるぞ!」
初めてのひとり立ちに燃える。
佐藤(感心、感心……)













カカオは一番上の書類を手に取る。
カカオ「今日の取り立ては新規、あ、女……」











女の顧客ということに戸惑うカカオを見て、
佐藤「カカオ、女でも手順は同じだぞ。しっかり金を回収して来い」
カカオ「は……はい」












【顧客女のアパート】

カカオ「いるのは分かってる!居留守を使っても無駄だ! 借りた金返せ!」
マニュアル通りのセリフを言いドアを叩き続けるカカオ。








急にドアが開き女が顔を出す。
カカオ「わっ!」(な、なんだよビックリしたな)













女「すみません、体調を崩してしまいお給料を貰いに行けなくて。今は手元にお金がありません。明日必ずお返しいたします」
カカオ「わ、わかった。じゃあ明日……」
カカオはそそくさと帰る。












【事務所】
カカオ、事務所にボーとして戻る。
佐藤「なんだ手ぶらか? 金はどうした?」











カカオ「あ、なんか事情があって返済は明日になりました」
佐藤「それなら姿をくらまさないよう、明日は朝から見張れ」
カカオ「はい……」












早朝から女のアパートに行き、見張りを開始するカカオ。女がアパートから出てくる。













女は歩いて駅に向かう。
カカオも気づかれないように続く。









女、電車に乗る。










【月星スーパー】
女、パート先に到着する。









【店長室】
女「おはようございます。お給料をいただきに伺いました」
モナカ店長「体の具合は良くなりましたか? とても心配してましたよ」











ずっと女に想いを寄せているモナカ店長。
モナカ(やっと二人きりになれた。今こそ絶好のチャンスだ! 月星グループの御曹司の俺を拒む女性はいないだろう)













モナカ「君はいつもよく働いてくれているので、少し色をつけてあげましたよ。さっ、どうぞ」と給料袋を差し出す。












女が「ありがとうございます」と給料を受け取ろうとするとモナカは袋を放り投げ、すかさず女の手を掴む。
女「!」









モナカは女を抱きしめる。
モナカ「君が好きだ!結婚しよう……」













女「やめてください!」
店長室の近くで待機していたカカオ。
室内からの女の声に気づく。












カカオ(な、何事だ⁉︎)
女を助けようと慌てて店長室に向かう。













女は全力で抵抗しパンチをする。
と、同時に遠くから秘書がモナカを呼ぶ声がする。










バツが悪いモナカは慌てて部屋から出ていく。
秘書「お父様――いや、社長がお見えになり店長をお呼びです。どうしたのですか! その頬は⁉︎」
モナカ「……つ、机の角にぶつけた……」












女は泣きたい気持ちを堪えながら散らばったお金を拾い集める。
女(今度は店長を殴ってしまったわ、もうここでは働けない……また職場を探さなければ……)
女に彼氏がいないことが知れ渡ると、どの職場でも度々似たようなことが起きた。

ドアの隙間から中の様子が見える。
何が起きたのか想像出来たが、カカオにはどうすることもできなかった。











夕方、カカオは女のアパートに行きお金を受け取る。










【事務所】
佐藤はカカオが回収してきた金を数える。
佐藤「だいぶ少ないな……この返済ペースでは利子が膨らむ一方だな……」











佐藤「カカオ、この女は竹中さんのところで働くようにもっていけ」
カカオ「……えっ⁉︎」
佐藤「可哀そうだが仕方がない。さっさと借金を返して再出発させてあげたほうがいいだろう」











カカオは動揺する。
カカオ(た、竹中って……あの悪名高い……)










佐藤「カカオ、この仕事に同情は不要だ。心を無くして言われたことを機械のようにこなすんだ。明日は俺も一緒に行ってやるから、お前が女に告げろ」




 




翌朝、2人は女のアパートに行く。佐藤は車で待ちカカオを見守る。
佐藤(……カカオの同情心はわかるが、俺の二の舞はさせらない。カカオはまだ若い、こんな仕事からは早く足を洗わないと)









【女の部屋】
女は職探し中。ドアを叩く音がする。








女がドアを開ける。
カカオ「職を探しているようならここを訪ねろ」と竹中事務所の名刺を差し出す。















女は突然のことに驚きながらも「ありがとうございます!」と嬉しそうにカカオにお礼を言う。












カカオは女の目を直視することができず、足早に去る。










車で待っていた佐藤。暗い顔で戻ってきたカカオの肩をポンポンと2回優しく叩く。










【夕方】
佐藤「今日の回収は順調だったな。時間があるから今朝の彼女の事もあるし、少し竹中さんと話してくる」

今日一日のカカオの落ち込み様を見ていた佐藤。竹中の社長に近々訪ねてくる今朝の女にはあまり辛い仕事はさせないよう頼もうと思った。承知してもらえたらカカオに伝え安心させてやろうと考えた。










佐藤「20分くらいで戻るからコーヒーでも飲んで待っててくれ」
カカオ「……はい」コーヒーを受け取る。佐藤が竹中事務所のビルに入っていく。













竹中事務所がどんなところかも知らず、嬉しそうに礼を言った彼女の姿が浮かぶ。
カカオの心は罪悪感で押しつぶされそうになっていた。









彼女のこれからの日々を思うと、いたたまれない気持ちになるカカオ。
カカオ(クソッ……考えるな……考えるな)と必死に言い聞かせる。









カカオが自分と格闘していると……その彼女が歩道にひょっこり現れる。
名刺とビルを交互に見て今まさにビルに入っていこうとしている。













彼女に気づいたカカオは「あっ!」と咄嗟に車から飛び出し……










全力疾走で女に駆け寄る。










カカオ「ちょ、ちょっとすみません!」と女の腕を掴むと……










カカオはそのまま猛スピードで走り出す。












カカオの必死さに、女も誰か悪いヤツが追ってきていると思い込み、途中から一緒に走る。











2人はビルの陰に隠れる。










カカオ(間一髪だった……)安堵とともに全身の力が抜けるカカオ。
女がカカオに気づく。
女「あら? あなたはこの名刺をくれた……」











カカオ「ん、名刺⁉︎」カカオは女が持っていた名刺を奪い取る。











カカオ「こんなもん、こうしてやる‼︎︎︎」
名刺をビリビリに破く。
女は驚くが……
















女「あなたが紹介してくれたのに、可笑しい……」とクスクス笑い出す。










初めて見た彼女の笑顔。カカオは一瞬で心を奪われる。







 


カカオ(……なんだこの可愛さは……)
カカオ、トロける。












カカオ(この人のことは俺が守る!)
決意するカカオなのであった。


~第2話につづく~