第3話

佐藤電話中。佐藤「こちらは大丈夫だからそんなに心配するな。それより、後悔のないようしっかり親孝行するんだ」










電話を終えた佐藤が言う「ソーダが家庭の事情で暫く休職することになった」ユズ「えっ……はい」佐藤「ソーダの抱えている仕事を分担しよう。ユズには現場を担当してもらいたい。その他の業務は私が引き継ぐ」ユズ「それでは社長の負担が大き過ぎます……」佐藤「私は大丈夫だ」ユズ「はい!わかりました!」









ユズは毎日現場に行き、会社では佐藤が黙々と作業をする。くるみは佐藤の仕事を手伝う。








くるみ「お昼買ってきました」佐藤「おっ、もうそんな時間か……ありがとう。いつも悪いね」くるみ「いえ、ついでですから」近くの弁当屋のおにぎりと鶏のから揚げとかぼちゃの煮物が佐藤の定番の昼食だ。









佐藤は仕事の手を一切休めることなく器用に食事をしていく。









ソーダが休職した日から、佐藤は会社で寝泊まりし、少しの仮眠だけで仕事を次々こなしてゆく。くるみ(昨夜も徹夜だったみたい。もうずっと家に帰っていない……)くるみはだんだん佐藤の体が心配になる。










ある日。佐藤がめずらしく単純な入力の仕事をしている。
くるみ「あの……社長、この入力、私もできますから代わります。家に帰って少し休んできて下さい」佐藤「ありがとう、でも大丈夫だよ。くるみさんは朝お願いした作業を続けて下さい」くるみ「それはあと少しで終わります」










くるみはなんとか佐藤に休息をとってもらいたくて続ける。くるみ「あまり長く家に帰らないと、奥さんとお子さんが寂しがりますよ!」   佐藤(……奥さん?お子さん?……はて?なんの話だ?)仕事以外の思考が停止していた佐藤は暫く考える。










佐藤は遠い記憶を思い出してハッとする(そうだ!俺、結婚して子供がいる設定だった!)











佐藤は慌てて席を立つ「そ、そうだな。じゃあお言葉に甘えて一旦帰るとするか!」くるみはホッとする。










佐藤帰宅。独身独り暮らしのシーンとした室内。










自分のクンクンと自分の体のにおいを嗅ぐ。
佐藤「まずはシャワーだな…」










シャワー後、体を拭きながらキッチンに行く。
佐藤「おっと、コーヒー切らしてたんだっけ……買いに行くか」










近所のスーパー。佐藤はコーヒーを 買うついでに、ふと思いつき食パンも購入する。









帰り道。青く澄んだ空を見上げる。
佐藤「ああ……気持ちの良い気候だな……」












自宅に戻り、鼻歌まじりに慣れた手つきでサンドウィッチをつくる佐藤。












出来上がったサンドウィッチを布巾で包む。









佐藤、会社に戻る。
佐藤「ただいま。悪かったね」
くるみ驚く「!?……も、もう戻られたのですか。もっとゆっくり休んでらっしゃれば……」










佐藤「十分休めたよ、どうもありがとう。はいこれ——いつも頑張ってくれている見習いさんへと——奥さんからの差し入れだ」とサンドウィッチをくるみに渡す。
くるみ「え!?私に!?」驚きながらも嬉しくもらう「ありがとうございます!」佐藤「腹へっただろ。入力代わるから、あっちでゆっくり食べてくるといいよ」










くるみ「社長も一緒にいかがですか?」と誘ってみる。佐藤「俺は家でたくさん食べてきたから大丈夫だ」くるみ「あっ、そうか……お子さん、パパに会えて喜んだんじゃないですか?お元気でしたか?」











佐藤「子供?ああ、超~元気だ!あれはもう怪獣だな」と怪獣のポーズを真似て笑う。
くるみ「うふふ、怪獣って……」佐藤につられてくるみも笑う。くるみ(不思議だ……クロさんとこんな会話を、笑って出来る日が来るなんて……)










くるみは給湯室でお茶を入れサンドウィッチを食べる。くるみ(あっ、これ、クロさんの好きな具の組み合わせだ!やっぱり美味しい。……クロさん、奥さんにレシピを伝授したのね。それを奥さんがこうして作ってくれて……クロさん愛されているのね)くるみは佐藤の幸せを心から嬉しく思う。










カカオ会社。カカオを目の前にプルプル震えるコムギ(私達、こんなに愛し合っているのに……辛すぎる……もう我慢の限界だわ……) カカオ(ん?コムギさん?どうかしたのかな?)











コムギ、涙ぐみながら廊下を駆けていく。  カカオ「え⁉︎コムギさん!待って!どこに行くの⁉︎」カカオは慌ててコムギの後を追う。











コムギは振り返り、後を追って外に出て来たカカオの胸に飛び込みしがみつく。
コムギ(カカオさん!)
突然抱きつかれ驚くカカオ(!?)












コムギ「辛いです……私、もう限界です(ここは社外……やっと愛する二人が触れ合えた……)」
カカオ(辛い?ああ……笑顔で褒める作戦もコムギさんには合わなかった……か……)落胆するカカオ。










佐藤、外出中。
佐藤「ん?なんだ?こんな真っ昼間のオフィス街でラブシーンか……」










佐藤(まったく、いったいどんな奴らが……)と、横を通りがてらチラリと視線を送る。










佐藤「!!!カ、カカオ⁉︎」












佐藤は慌て早足で通り過ぎる。
佐藤(い、いや、カカオが浮気なんてするはずない……あれはカカオに似た、別人だな)










暫く歩き、冷静になる佐藤。
佐藤(最近、睡眠不足が続いていたとはいえ情けないぞ!これしきの仕事量であんな見間違いをするなんて……許せカカオ、一瞬でも疑って……)
佐藤「よし!気を引き締めるぞ!」ゴンゴンと頭を強く叩きながら自分を叱咤する佐藤。









カカオ「コムギさん、ゴメン、俺のせいだね」コムギ(そうよ、カカオさんが早く奥さんと別れてくれないから……)カカオを恨めしそうに見上げる。
後輩の指導も上手く遂行できない自分の不甲斐なさに、カカオの目にも涙が滲む。コムギ(あっ、カカオさんも泣いているわ……そうね……そんな簡単には離婚なんて、できないわよね)









コムギ(カカオさんだって辛いのよ。私がしっかりしなくちゃ!そうよ!障害のない恋なんて、酸っぱくないレモネードのようなものだわ!)瞬間、コムギの脳内はカカオロミオとコムギジュリエットの美しい場面で満たされる。
コムギ「さっ、カカオさん、会社に戻りましょう!)意気揚々とカカオの手を引く。







数日後。佐藤が外出先から帰ってくる。
佐藤「ただいま。俺はまたすぐに現場に戻るけど、その間にやっておいてほしい仕事の説明をしたいんだが、今、いいかな?」
くるみ「はい!」





くるみ「あっ!頬に傷が!」
佐藤「あ?……ああ、さっき現場で擦りむいたんだ。大した事はない、大丈夫だ」









くるみ「ダメです!手当をしておかないと、痕になってしまいます!すぐ済みますので……」
くるみは大急ぎで自分のロッカーに走る。









超特急で戻ったくるみ「少し姿勢を低くしてもらっていいですか?」           佐藤「あ、ああ……」くるみは真剣に佐藤の傷の手当てをする。









その後、傷口に絆創膏をしっかりと貼る。  くるみ「はい、これでいいです。終わりました!」佐藤「どうもありがとう」
















佐藤「じゃあ、仕事の続きね……」
くるみ「はい!」








20分後。佐藤「それじゃあ、行ってくるが今日は直帰になると思う。くるみさんも時間になったら仕事を切り上げて帰ってください」
くるみ「はい、わかりました!」






佐藤は3ヶ所の工事現場を駆けずり回り、夜遅くまで仕事をする。









深夜、佐藤帰宅。佐藤「あー、汗かいた。まずは汗を流そう」









佐藤はシャワーを浴びながら上機嫌だった。
(今日は不思議とスルスルと意見が通ったな。いつも頑固な現場監督たちが、今日は皆笑顔で優しかったし……なぜだ??……まぁいい、これで頭の痛かった案件が全て一気に解決した。夢の実現に向け大きく前進だな!)
















風呂上がり。いい気分のまま体を拭く佐藤。 湯気で曇った鏡にぼんやりと自分の顔が映り、頬に鮮やか色が浮かんでいるのを発見する。 佐藤「ん?なんだ⁉︎」









佐藤は鏡を手でぬぐい確認する。……その鮮やかな色の正体は絆創膏だった。









佐藤「ず、ずいぶん可愛らしい絆創膏を貼ってくれたんだな……」そして佐藤は気づく。(ああ……さては今日、現場の皆が妙に笑顔だったのは、この絆創膏のお陰だったか……)









二人が付き合っていた頃、可愛い絵柄の絆創膏集めを趣味としていたくるみの姿を思い出す。
佐藤「あの趣味はまだ健在か……」思わず笑みがこぼれる佐藤(今回はくるみに助けてもらっちゃったな。ありがとな……くるみ……)









くるみの貼ってくれた絆創膏のおかげか、引き続き大量の業務が快調に進んでいく。









ある日の夜。佐藤がふと自宅の鏡を見ると絆創膏が剥がれかけている。










佐藤は慌てて、家にあった工作のりで剥がれかけた絆創膏を貼り付ける。佐藤「よし、これでいいな……」









深夜。仕事の資料を読んでいると、のりで貼り付けた絆創膏が再び剥がれる。









修復を試みるも、すぐに剥がれてしまう。よく見ると傷はすっかり消えていた。
佐藤「なんだ……もう治っちゃったか……」佐藤は名残惜しそうに絆創膏をそっと剥がす。









怒涛の忙しさがひと段落したある日の午後。
佐藤「これから打ち合わせに行くけど、一緒にどうかな?いい勉強になると思うけど」
くるみ「いいんですか!はい!ぜひ行きたいです!」








打合せ後。
佐藤「どうだった?少し難しかったかな?質問があれば答えるよ」
くるみ「はい、とても勉強になりました!質問は、たくさんあります!ええと、まずは……」







仕事で出先に向かうカカオを乗せたバスが大通りを走行する。前方に佐藤の姿を発見する。
カカオ(あっ、佐藤さんだ……)









カカオ(ん?一緒にいるのは……女性?)
カカオは身を乗り出して目を凝らすが、佐藤の影になって顔が見えない。







その時、バスが速度を落としながら右折を始める。同時に、歩道で立ち止まる佐藤の影から、ゆっくりとくるみが現れる。                 カカオは思わず立ち上がる「えっ……⁉︎」













後部座席に飛び移り、後方窓から呆然と二人を見つめるカカオを乗せたバスが遠ざかる。

















カカオ(くるみさん……会社に行くと嘘をついて……毎日、佐藤さんと会ってたのか……?)
カカオは鈍器で頭を殴られたような衝撃を受ける。

~第4話につづく~