第6話

一週間後。きなこはカフェに呼び出される。
モナカ「きなこさん、僕たちの結婚話はなかったことにしよう」きなこ「え……」
モナカ「僕らの結婚に反対する理由を父に聞きに行った。そして母のことを聞いた。それで目が覚めたんだ。財閥の嫁なんて苦労の連続なのに……僕は自分のを希望を優先するあまり、きなこさんの気持ちや幸せを考えていなかった。本当に悪かったと思っている。ごめんなさい」










モナカ「僕らの結婚がなくなったとしても、タルト君の治療費のことは心配いらないよ。だってきなこさんはタルト君の本当のお姉さんじゃないじゃないか。タルト君が勝手に慕ってるだけって話してくれたよ。僕たち凄く程気が合うんだ!僕はずっとあんな弟が欲しかった。父にその話をしたら理解してくれて必ず病気を治してうちの養子にすると約束してくれたんだ」











モナカ「今までの人生、僕の味方は誰ひとりいなかった。この前きなこさんが僕の味方になってくれた時、安心感と同時に勇気が湧いたんだ。だから今回、初めて父と正面から話しをすることが出来たし、それがきっかけで父と和解することができた。全てきなこさんのお陰だよ。感謝しているよ。きなこさん……きなこさんにはこれからは心のままに、好きなように生きて欲しい」きなこ「モナカさん……」










ゆりねが佐藤の部屋を訪ねる。

ゆりね「じゃ~ん!ママが未来の旦那様に精をつけてもらうようにとお肉を持たせてくれました~♡すぐに焼くわね!」










きなこはモナカから言われた『心のままに、好きに生きる……』について考える。








きなこの【好き】はいつもただひとつだった。
きなこ(私は……私は……佐藤さんが好き!佐藤さんのそばにいたい!!)











佐藤部屋。

ゆりねがルンルンで料理をし、佐藤は仕事を続ける。











その状況に、きなこと過ごした日々が重なる。佐藤は頭からきなこを振り払おうとするが全くうまくいかない。










きなこははやる気持ちを抑えきれず、佐藤の家に向けて走り出す。きなこ(佐藤さんに会いたい!)











佐藤は仕事を諦め本棚に行き、きなこからもらった絵本を取り出す。










その時チャイムが鳴る。
ゆりね「あっ!大丈夫よ、私が出るわ♡」










ゆりね「あらやだ、何?今取り込み中よ!」
佐藤の部屋からゆりねが出てきて驚くきなこ。きなこ(あっ……)










慌てて逃げるきなこ(そうだった!佐藤さんはゆりねさんと付き合ってるんだった……)
ゆりね(ふんっ!佐藤さんは私のものよ。もうここは貴方がノコノコやって来ていい場所じゃなくてよ!)










佐藤「誰?」
ゆりね「宗教の勧誘よ、追い返したわ。忙しいのにまったく嫌になっちゃう!」
佐藤「なにか手伝おうか?」
ゆりね「ありがとう、でも大丈夫よ。あともう少しだからゆっくりしてらして♡」










ゆりねは料理を再開し、佐藤はソファに寝転がり絵本を読み始める。












20分後。
ゆりね「お待たせ~できたわ……」と佐藤を呼ぼうとすると、佐藤はソファでスヤスヤと眠っている。
ゆりね(あら♡眠っちゃったのね)












佐藤の寝顔に見惚れるゆりね「寝顔もステキ……もうすぐ貴方と結婚するのね……幸せ♡」









佐藤の顔を見つめていると次第にドキドキしてくるゆりね。佐藤の端正な輪郭を触れないよう慎重に指でなぞっていく。
指先が佐藤の唇の上に来た時、思わず口にする「貴方が好き……大好きよ……愛しているわ……」佐藤がその声に気づく。










佐藤が目を開ける一瞬前、ゆりねは踵を返しキッチンに逃げ帰る。
ゆりね「キャー♡心の声がつい出てしまったわ……こういう言葉は殿方から言ってもらわないとなのに〜♡いやーん♡もう照れちゃう♡」
佐藤「……」











暫くしてゆりねが帰ると、佐藤はソファから起き上がる。テーブルの上には豪華な料理と手紙が置いてある。『ダーリンへ♡ よく眠っていたので起こさず帰ります。温めて食べてね♡あなたのゆりねより チュッ💋』
その手紙をじっと見つめる佐藤(…………)










翌日。ゆりねは佐藤に呼び出される。
ゆりね(彼の方から呼び出しなんて珍しいわ、昨日の料理で胃袋を掴めたのね♡正式なプロポーズかもしれないからオシャレしてきちゃった♡)










佐藤「ゆりね、忙しいところ悪いな……」
ゆりね「ううん、全然。(あら?花束を持っていないようね?どこかに別の場所に移動するのかしら?)」










すると、突然佐藤が土下座をする。
佐藤「ゆりね、申し訳ない。俺はゆりねと結婚できない」
ゆりね「……へ?」目が点になる。











ゆりね「ち、ちょっと待って!結婚できないってどういうこと?」
佐藤「……俺に対する――ゆりねの気持ちを知ってしまった……」
ゆりね(え!?――なぜバレた?あ、昨日の置手紙……愛を抑えきれず気持ちを乗せすぎちゃったかしら……)













ゆりね(ええーい、もうバレちゃったなら仕方ないわ!)「そ、そうよ!私は貴方のことが好きで好きでたまらないわ!あ……あ、あ、愛しているの!でももう結婚するんだし、私の気持ちを知ったところで別にいいじゃなーーい!」
佐藤「よくないよ……俺はゆりねの気持ちに応えてやれない……」
ゆりね「今すぐ私の全てを愛してくれとは言っていないわ。少しづつ愛してくれれば……」









佐藤「それはできない……」
ゆりね「え?なぜ……?」
佐藤「……ごめん、俺の心には別の女性がいるんだ……」
ゆりね(え……⁉︎今なんて⁉︎……)










佐藤はゆりねと別れ、ある場所を目指し大通りを歩いている。
佐藤(ゆりねの気持ちに気づかずにひどいことをしてしまった……でも別れるなら早い方がいい。ゆりねは美人だ、俺なんかよりもっと条件のいい男はいくらでもいる)








きなこ、スーパーで爆買い中。
きなこ「やけ食いをして佐藤さんのことを忘れよう!あっ、この美味しいやつ安売りしてる!いっぱい買っちゃえ!」
それもこれもとカートに山盛りの食料を入れる。












佐藤は消費者金融の店の前に立つ。
佐藤(そうだ、最初からこうすればよかったんだ。くるみと別れ……借金を返すだけの機械のように生きていた。そんな時にきなこは現れた。あの屈託のない笑顔に癒され、俺は再び心を取り戻した。いわばきなこは命の恩人だ。そのきなこを助けるための借金で、もしこの身が破滅する事になったとしても、それはそれで本望だ)と心を決める。













佐藤(きなこの青春は始まったばかりだ。両親もなく幼い頃から苦労してきただろうに、金の工面の為にまた苦労の絶えない財閥に嫁ぐなんてあまりにも不憫だ。きなこには、たくさん遊んで、たくさん恋をして――人生をおおいに楽しんで貰いたい――きなこのあの笑顔は俺が守ろう!)







モナカは公園のベンチに座り小鳥のエサをあげている。
モナカ「お前たちは兄弟か?俺にももうすぐ弟ができるんだ」(父に止められても、立派な跡取りを産むときかなかったという母の願いを叶える為にも、タルトと2人で力を合わせて会社を盛り上げて行くぞ)









ゆりねがフラフラと公園のベンチにやってくる。ゆりね(トホホ……私があんな小娘に負けるなんて……有り得ない……)










モナカが座ってるベンチの反対側にゆりねがドサッっと座る。
その音に驚き振り向くモナカ「ゆ、ゆりね!」









突然声をかけられ驚くゆりね「なっ!なんでモナカがここにいるの!?」モナカ「なんでって、俺は毎日ここで小鳥にエサをあげるのが日課だから……」









スーパーを出るきなこ。
きなこ(お、重い、重すぎる……調子にのって買いすぎた……)
反省するが仕方なく歩き出す。歩くたびに荷物がガチャガチャと大きな音を立てる。









「よし!いくぞ!」気合いを入れる佐藤。その背後に家に帰る途中のきなこが接近する。目の前の佐藤の後ろ姿に気づくきなこ(わっ!佐藤さんだ!まずい――引き返そう……)









背後の騒がしい音に何事かと振り返る佐藤(きなこ!?)









足早に遠ざかるきなこを追う佐藤。
佐藤「きなこ!ずいぶん重そうだな。家まで運んであげるよ」
きなこ(わっ、見つかっちゃった)「い、いいです大丈夫です!そんなことしたらゆりねさんに怒られます」








佐藤「心配ないよ。ゆりねとは別れたんだ」
きなこ「……へ?」
佐藤「ほら、荷物を渡して……」






佐藤はきなこから荷物を受け取ると、きなこの家に向けて歩き出す。きなこは後ろから付いて歩く。
きなこ(佐藤さん、ゆりねさんと別れたんだ……)









きなこ「わ、私もモナカさんと別れたました……」
それを聞いた佐藤は「そうか、よかった……」と心底ホッとする。佐藤(後は俺が金を用意すればいいだけだな……)









きなこは話を続ける「モナカさん、私の弟のことが大好きで。私の本当の弟ではないと知って弟の面倒を見たいと言ってくれて。近々、私たちの孤児院で手続きして、モナカさんの家の養子にしてもらえることになったんです」
佐藤「そうか……彼はきなこの本当の弟ではなかったのか……」









佐藤は再び歩き始める(そうか――モナカはああ見えて意外と男気のあるいい奴なんだな……)
きなこは以前のようにまた佐藤と一緒にいられると思うと(もう、たまらん……♡)











きなこの家に到着する。
佐藤「きなこ、もしよかったらなんだけど――今度一緒に南の島の海に行かないか?」
きなこは佐藤からの思いがけない誘いに「は、はい!行きたいですっ!」即答する。









きなこ部屋
きなこ「キャー――!!!佐藤さんと南の島の海に行ける~♡」天にも昇る気持ちのきなこ。









佐藤帰り道。
佐藤(きなこにあの海をみせてやれるぞ……そしてあれと同じネックレスを買ってあげよう……)きなこの喜ぶ姿を想像し佐藤の気持ちは昂る。







公園ベンチ。ゆりね「あっ――モナカまた体中に傷をつくって……またお父様にやられたのね」モナカ「え⁉︎ 何故ゆりねがそれを知って……?」ゆりね「知ってるわよ!だって高校の時あなたはいつも大金持ちすぎるという理由でいじめられてた私を、その腕力で助けてくれてたじゃない?それなのに時々傷だらけで登校してきてたでしょ?気になって調べたらモナカがお父様に反抗すると殴られると知ったの」









モナカ「結婚だけは父の言いなりになるまいとしたけどダメだった。実は俺、高校の時ゆりねが好きだったんだ。でも卒業と同時に父から、ゆりねが婚約者だと突然決められて――その時俺は決めたんだ。ゆりねとは絶対に結婚しないと」ゆりね(え?それって……私が海外留学中にモナカを他の女に取られたくなくって無理を言って婚約を進めてもらった経緯が……ということは、私のせい?)










ゆりね「私はね、それを知った日から絶対にモナカと結婚をして、お父様からモナカを守ろうと決めていたのよ。だから留学先では、ほら!この通り空手も習っていたのよ!」
ゆりね「トリャーーー!!!」とモナカの前で空手の型を華麗に披露する。










モナカはゆりねからの告白に(そうか……俺にはずいぶんと前から力強い味方がいたんだな……ありがとうな、ゆりね……)
モナカの心は再び温かくなり――同時に勇ましいゆりねの姿に胸がときめく。














佐藤ときなこは南の島行きの飛行機に乗る。
きなこ「うわぁぁぁ~高いーー!雲が下にあるぅぅぅ~!街がオモチャみたいーーー!」
佐藤「あはは、高い所は怖がるかと思ったけど案外大丈夫なんだな」きなこ「はい!全然怖くないです!むしろ大好きです!」














佐藤はお目当ての海をきなこに披露する。
佐藤「ジャーン!」
きなこ「う、う、うわぁぁぁーーーーーーー」あまりの美しさに言葉を失う(なんて綺麗な色……)大感動する。
















佐藤「きなこ、少しここで待ってて」
きなこ「はい!ここでなら何時間でも待っていられます!」
佐藤「あはは――そんなにかからないよ。10分くらいだ」












佐藤は急いで貝殻アクセサリーの売店のあった場所に向かう。
佐藤「え……ない!?確かこの辺りだったはず……少し移動したのかな?」佐藤は焦りながら近くを探し回る。











佐藤はさんざん探し回ったが売店はどこにもなかった。きなこにあのネックレスをどうしてもプレゼントしたかった佐藤はひどく落ち込みながらきなこの元へと戻る。
一方、しばらくキレイな海を眺めていたきなこはふと思いつく。











きなこはカバンの中をガサゴソ漁る。












きなこ(……あった♡)







きなこの元に戻った佐藤がきなこに背後から声をかける。
佐藤「ただいま……ゴメン遅くなって……」力なく声をかける。












きなこ「おかえりなさい!」
佐藤はきなこの胸元に光るネックレスに驚く。佐藤「えっ!こ、このネックレスは……!?」












きなこ「あ……実はこれ、家の近くのゴミ置き場に捨ててあって。あまりにも素敵でどうしても欲しくて――いけないと思いつつ拾ってしまったんです。箱に入ってリボンがかけてあって……きっと大切な人へのプレゼントだったと思うと、私が身に着けるのは悪いような気がして。だから、ずっとただ大事に持ち歩いていたのですが……










きなこ「なんかこの海を見ていたら……もしかしてこのネックレスは神様からの私へのプレゼントだったんじゃないかと思えて……だってこの海の色と同じだし、キラキラしてるし、なにより私の大好きなクリームソーダカラーだし」佐藤(あの日、俺が怒りに任せて捨ててしまったネックレス……あの後すぐにきなこが拾って……)佐藤の心が震える。













佐藤は思わずきなこを抱きしめる。
きなこ(さ、佐藤さん⁉︎)












佐藤「きなこ、俺はきなこが好きだ!」
佐藤からの思いがけない告白に驚くきなこ。












佐藤からの真っ直ぐな告白を聞いて、きなこも勇気を出して自分の気持ちを佐藤に伝える。
きなこ「……私も――私も佐藤さんが好きです。出会った瞬間からずっとずっと大好きです……」













きなこの想いを聞いた佐藤は、きなこへの愛おしさが溢れんばかりに満ち満ちる。

佐藤「きなこ――キスしてもいいか?」
きなこ「は?……は、は、はい!」












佐藤「きなこ――これがきなこのファーストキスだよ……」と囁いてから、佐藤はきなこに熱い熱いキスをする。











突然きなこの全身の力が抜ける。佐藤「お、おい、きなこ!どうした⁉︎大丈夫か⁉︎」きなこ(も……もうダメ、幸せ過ぎてとろけちゃう〜……)

~完~



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